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筋肉作りホルモンであるテストステロン減少の原因は?カタボリックホルモンのコルチゾールとは?|テストステロン連載(4/4)

テストステロンのような男性ホルモンの数値を高く保つことは、ボディメイクを考える方にとっては非常に重要なテーマです。しかしながら世の中には、テストステロンの分泌量を増やすための情報はたくさんあるものの、テストステロンが減少する原因に触れたものは意外と少ない印象です。そこで今回は、どのような習慣がテストステロンの値を低下させてしまうのかを解説します。

<この記事の内容>
テストステロンが減少する原因
コルチゾールについて
・・・そもそもコルチゾールとは何か
・・・コルチゾールと運動の関係
テストステロンが減少すると発生する症状について
まとめ

テストステロンが減少する原因

テストステロン

まずは、テストステロンが減少する原因として最も大きな3つの要素について解説します。ここで紹介する原因は誰にでも起こりうるものですが、場合によっては対処することが可能なものもあります。ご自身の状況を踏まえながら、お読みいただければと思います。

・加齢
テストステロンの合成量は20代でピークに達した後、30代以降は年々低下していくことが分かっています(引用1)。もちろん、テストステロンの合成量には個人差があるため、若年でもテストステロン値が低い方や、逆に30代をすぎてもテストステロン値が高い方もいます。加齢によるテストステロンの減少は、男性更年期障害を引き起こすことがあります(引用2)。治療のためには、生活習慣を見直すことや漢方薬の服用に加えて、医療機関でのホルモン療法等も候補に挙がります。加齢によるテストステロンの減少を止めることは難しいので、他の要素でさらにマイナスにならないように意識した生活を送ることが重要です。

・ストレス
ストレスによるコルチゾールの分泌が、テストステロンに悪影響を及ぼすとされています。コルチゾールについては、この記事の後半でより詳細に解説します。ストレスによって副腎にダメージが入ると、体の機能を調整する複数のホルモンの分泌が正常に行われなくなります(引用3)。テストステロンの多くは精巣で作られますが、副腎でもその一部が作られているため、副腎の機能低下がテストステロンの値を低下させる可能性があります。

・肥満
肥満状態がテストステロンを減少させることも分かっています。国によって肥満の基準は異なり、日本では、BMI25以上が肥満に分類され、さらにその程度によって1から4の段階に細かく分けられます(引用4)。BMIは体重(kg)を身長(m)で2回割って求める値です。そのため、ボディビルダーのように脂肪が少なくても体重が多い場合は、実際の体脂肪の状態を反映したデータにならないという欠点があります。とはいえ、通常の生活をする多くの方には適用できる指標であるため、広く医療の現場等でも用いられます。

ポーランドの研究者が2014年に発表したデータによると、BMIが30を超えている30代の肥満男性は、通常のBMIの男性と比較した場合に、テストステロン量が有意に低かったとされています(引用5)。また、肥満の40代男性では、テストステロンの分泌に関わる黄体形成ホルモンの量や、テストステロンを運ぶ役割を持つ性ホルモン結合グロブリンの値が低かったことも分かりました(引用5)。

オフシーズンに体脂肪を増やしすぎることは、テストステロンの観点では好ましくないと言えるでしょう。

コルチゾールについて

テストステロン

続いて、テストステロンと競合するように説明されるコルチゾールについて解説します。コルチゾールは別名ストレスホルモンとも呼ばれ、強いストレスに反応して分泌されることが知られています。名前だけ聞くと悪いものとイメージされるかもしれませんが、実際は、ストレスから身を守るためのさまざまな反応に関わる重要なホルモンです。しかし、その分泌量があまりにも多くなってしまうと、今度は害となる部分も現れ始めます。ここでは、そのような点にも触れながらコルチゾールの一般的な内容について説明していきます。

そもそもコルチゾールとは何か

コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンです。副腎からは、性質が互いに異なる糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドが分泌されていますが、コルチゾールは糖質コルチコイドに含まれます。体がストレスを感じると、間脳視床下部→脳下垂体→副腎皮質の順にシグナルが伝達し、コルチゾールの分泌が引き起こされます。

コルチゾールは、ストレスに対抗するために分泌されるホルモンです。そのため、その機能は、ストレスという外部や内部からの攻撃に備えるものが基本となります。

・抗ストレス作用
ストレスに対して戦う状態を作るためには、体を興奮状態にする必要があります。体の興奮を司るのは自律神経のうちの交感神経です。コルチゾールが分泌されると、交感神経が刺激され、それによって心拍数や血圧の増加が起こります。スポーツの試合の前に武者震いをするような感覚は、コルチゾールや交感神経の働きによって引き起こされていると思って良いでしょう。

・糖新生
筋肉を発達させたいと考える方にとっては、あまりありがたくない働きがこの糖新生です。ヒトの体は、活動のためのエネルギーが不足すると、体に蓄えられた脂肪やグリコーゲンを酸化することでエネルギーを得ようとします。この時、脂肪やグリコーゲンだけでなく、筋肉からも運動に必要な糖を作り出す働きがあり、これを糖新生と呼びます。基本的には、血糖値を急上昇させる必要がある場合等に糖新生は起こります。しかし、ストレスによってコルチゾールが多い状態が続くと、慢性的に筋肉が分解される状態に陥る可能性があります。このことが、コルチゾールは筋肉作りの天敵と呼ばれる所以です。

・抗炎症作用・免疫抑制反応
いわゆる精神的な意味でのストレスだけではなく、細菌やウイルス等の侵入も体はストレスと受け取ります。細菌やウイルスと戦うための免疫機能によって腫れや痛みが生じますが、これらをやわらげる効果がコルチゾールにはあります。そのため、日本薬局方ではコルチゾールをステロイド系抗炎症薬の1つとして設定して臨床使用しています。ちなみに、糖質コルチコイド系の薬はドーピング検査の対象薬となっているため、競技に参加することになっている方は、その旨をかかりつけ医に知らせておくと良いでしょう(引用6)。

コルチゾールと運動の関係

コルチゾールにはエネルギーを生み出す性質があるため、どうしても運動中にはその数値が高くなります。さらに、運動の量や強度があまりにも多いと、いわゆる「オーバートレーニング」の状態になり、さらにコルチゾールの分泌が増えることも分かっています(引用7)。ボディビルダーは、非常に高強度のトレーニングを長時間かつ高頻度で行うことがありますが、コルチゾールの分泌の観点からすると、これは好ましくないとも言えます。

一方で、運動を続けることで、コルチゾールの働きを低下させることができたという報告もあります。フランスの大学が2005年に発表した論文では、トライアスロン選手のコルチゾールレベルが調べられました。その結果、シーズンに入って競技に備えた練習を開始すると、細胞内でコルチゾールを不活性化させる機能が強化されることが分かりました(引用8)。しかしやはりこの実験でも、オーバートレーニングに陥った場合はコルチゾールの働きを弱められないことも示されました。

コルチゾールの増加は、糖新生による筋肉の分解の促進だけでなく、筋肉の発達に関わるホルモンであるIGF-1の合成量を減らすことにもつながります(引用9)。すなわち、カタボリックな状態を作り出すだけでなく、アナボリックな状態も失われるということです。トレーニングを一生懸命行っているにも関わらず体に変化がない場合は、トレーニングのボリュームを減らしたり、休養日を増やしたりすると、コルチゾールの観点から良い影響が得られる可能性があるでしょう。

テストステロンが減少すると発生する症状について

テストステロン

最後に、テストステロンが減少した場合に見られる症状について解説します。一部は、カタボリックホルモンであるコルチゾールが増えた場合にも対応しますので、その場合は併せて紹介します。

・筋肉の発達の遅れ
テストステロンのような男性ホルモンには、筋肉や骨のようなたんぱく質からなる組織の合成を促す働きがあります。テストステロンが筋肉合成のための全ての要因ではないので、これだけで発達が止まるということはないです。しかしながら、テストステロンの値が低い人は、それだけ筋肉の発達が遅くなる可能性があることは事実です。

コルチゾールの分泌が多い場合には、筋肉が分解されやすくなるため、やはり発達が遅れることが予想されます。コルチゾールは、肉体的なストレスだけでなく、精神的なストレスによっても分泌が促されます。前者は、トレーニングの今日を見直すことで解消できます。後者については、職場の人間関係等もあるため、難しいですが、一人で抱え込まず頼れる人に相談することなどが解決策になるかもしれないですね。

・男性更年期障害
近年、女性だけでなく男性にも更年期障害があることが広く認知され始めています。女性の更年期障害は、閉経後に女性ホルモンであるエストロゲンの合成量が変化することで引き起こされます(引用2)。男性の場合は、加齢に伴ってテストステロンが減少することで、やる気がなくなって無気力になったり、逆に些細なことに腹を立てるように性格が変わったりすることがあります。これらの症状を防ぐためには、テストステロンの合成に重要な役割を果たす亜鉛、ビタミンD、たんぱく質などを豊富に含む食事を普段から心がけると良いです(引用10)(引用11)。また、適度な運動もテストステロンの分泌を促します。いきなりレジスタンストレーニングを始めるのは大変なので、運動習慣のない方は、まずは近所の散歩を習慣にしてみてはどうでしょうか。

まとめ

今回は、筋肉作りホルモンであるテストステロンが減少してしまう主な原因を紹介しました。加齢のような防ぐことが難しい要因もありますが、ストレスや肥満などは、自分の取り組み次第で改善できる可能性があります。

テストステロンとは反対に、筋肉を分解する作用のあるコルチゾールについても解説しました。コルチゾール自体は、体に有用な働きを多く持つ物質ですが、過度に分泌されるとさまざまな問題を引き起こします。

テストステロンの値を高めつつ、コルチゾールの値は適度にコントロールすることを意識して、日々の生活を送れると良いですね。

執筆者:舟橋位於(ふなはし・いお)

1990年7月7日生まれ
東京大学理学部卒(学士・理学)
東京大学大学院総合文化研究科卒(修士・学術)
NSCA認定パーソナルトレーナー
調理師

東京大学在学中に石井直方教授(当時)の授業に感銘を受け、大学院は石井研究室で学ぶ。団体職員等を経て、現在は執筆業務および教育関連事業にて活動中。得意な執筆ジャンルは、運動・栄養・受験学習。

引用1. 岩本 晃明, 柳瀬 敏彦, 高 栄哲, 堀江 均, 馬場 克幸, 並木 幹夫, 名和田 新 日本人成人男子の総テス トステロン, 遊離テス トステロンの基準値の設定, 日泌尿会誌, 95巻, 6号, 2004年: 751~760
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1989/95/6/95_6_751/_pdf

引用2. 厚生労働省|更年期障害

引用3. Lee DY, Kim E, Choi MH. Technical and clinical aspects of cortisol as a biochemical marker of chronic stress. BMB Rep. 2015 Apr;48(4):209-16.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/rticles/PMC4436856/

引用4. 厚生労働省|BMI

引用5. Jastrzębska S, Walczak-Jędrzejowska R, Kramek E, Marchlewska K, Oszukowska E, Filipiak E, Kula K, Słowikowska-Hilczer J. Relationship between sexual function, body mass index and levels of sex steroid hormones in young men. Endokrynol Pol. 2014;65(3):203-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24971921/

引用6. 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構|世界アンチ・ドーピング規定2023禁止表国際基準
https://www.playtruejapan.org/entry_img/2023_prohibited_List_jpn__final.pdf

引用7. Kraemer WJ, Ratamess NA, Hymer WC, Nindl BC, Fragala MS. Growth Hormone(s), Testosterone, Insulin-Like Growth Factors, and Cortisol: Roles and Integration for Cellular Development and Growth With Exercise. Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Feb 25;11:33.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32158429/

引用8. Gouarné C, Groussard C, Gratas-Delamarche A, Delamarche P, Duclos M. Overnight urinary cortisol and cortisone add new insights into adaptation to training. Med Sci Sports Exerc. 2005 Jul;37(7):1157-67.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16015133/

引用9. McCarthy JJ, Esser KA. Anabolic and catabolic pathways regulating skeletal muscle mass. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2010 May;13(3):230-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20154608/

引用10. Te L, Liu J, Ma J, Wang S. Correlation between serum zinc and testosterone: A systematic review. J Trace Elem Med Biol. 2023 Mar;76:127124.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36577241/

引用11. Trummer C, Pilz S, Schwetz V, Obermayer-Pietsch B, Lerchbaum E. Vitamin D, PCOS and androgens in men: a systematic review. Endocr Connect. 2018 Mar;7(3):R95-R113.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29449314/

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