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夏の甲子園覇者・慶應高校野球部のウエイトトレーニングに潜入"エンジョイ・トレーニング"

夏の甲子園で慶應高校が決勝で仙台育英を8対2で下して107年ぶり2度目の頂点に立った。〝エンジョイ・ベースボール〟がフィーチャーされるが、長きにわたるフィジカル強化の基礎・基盤が根底にある事実も見逃せない。フィジカル強化を支えるのは、2000年から続く『トレーニングセンター・サンプレイ』による指導だった。内容を探るべく残暑残る慶應高校野球部のウエイトトレーニングルームを訪ねた。

発売中のウエイトトレーニング雑誌『IRONMAN2023年12月号』掲載の「慶應高校野球部のウエイトトレーニングに潜入」より内容を一部抜粋してお届けします。(全文はIRONMAN2023年12月号でお読みいただけます)

【写真】慶應高校野球部のウエイトトレーニング

IRONMAN2023年12月号で慶應高校野球部のウエイトトレーニングを紹介している

IRONMAN2023年12月号で慶應高校野球部のウエイトトレーニングを紹介している

野球のWBCやバスケットボールのワールドカップなどと共に、夏の甲子園で107年ぶり2度目の優勝を果たした慶應義塾高校の活躍は2023年のスポーツを語る上で外せないトピックだろう。

〝エンジョイ・ベースボール〟や髪型の自由など高校野球の新潮流を象徴するキーワードがよく知られるところだが、慶應義塾大学体育研究所と連携して最先端のスポーツ科学を取り入れながらパフォーマンス向上を図る、あるいはウエイトトレーニングを早くから重視しているといった側面もフィーチャーされつつある。

高校野球におけるウエイトトレーニングの重要性について、森林貴彦監督は改めてこう語る。

「野球は技術的要素もある一方で、体力的な要素も無視できません。もちろん身体を大きくするだけでは駄目ですが、打者ならバットスイング、投手なら球速といったものは体重に比例する部分も大きい。その一方、野球は関節を酷使するスポーツでもあるので、関節周りの筋肉を強化することも大事です。野球技術の下支えとして、また怪我や故障を予防する身体の土台作りとしても、ウエイトトレーニングは高校野球において必須だと認識し、取り組んでいます」

快進撃が大きな話題を呼んだ夏の甲子園では、宿舎近くの地下駐車場に即席のウエイトルームを設置。ライバル校、仙台育英高校との決勝戦前日を含め、身体に適度な刺激を入れるウエイトトレーニングを現地でも継続した。ベンチ入りした足立然選手(2年)が振り返る。

「『夏の甲子園では2週間という期間中で選手の体重が落ちていくチーム、体重が変わらないチーム、体重が増えていくチームの3種類ある。うちは体重を増やすつもりで戦っていこう』という監督の森林さんの言葉をもとに、期間中は重さをあげるというより身体のキレを出すようなトレーニングのメニューや、それに応じた食事、捕食などを学生コーチの方が中心になって考えてくれました」

大会中も器具を持ち込み、トレーニングを行うチームは珍しいが、その試みが奏功したと森林監督は総括する。

「炎天下で長丁場の夏の甲子園では、熱中症予防や睡眠、入浴といった疲労対策が明暗を分けることも多い。その意味では、ウエイトトレーニングもコンディション管理の上で欠かせませんでした。決勝戦までメンバーは大きな怪我や故障もなく戦い抜くことができた。トレーニングがその一因に間違いなくなっていると思います」

慶應高校には各ポジションなどのコーチ役を野球部出身の大学生が務める「学生コーチ」の伝統がある。ウエイトトレーニングでも、週3回の基本のウエイトトレーニングは学生コーチが主体となってメニューを組んでいるが、それ以外に月に数回、ボディビルの名門ジムである「トレーニングセンター・サンプレイ」のスタッフがトレーニング指導をしている。

学生コーチとサンプレイ、2つのアプローチで行うトレーニングは選手からも好評だ。2024年度主将として、また捕手としてもチームのまとめ役を期待される加藤右悟選手(2年)が語る。

「サンプレイの方からは基本の種目について正しいフォームを学べることが大きいです。ふだんのトレーニングからフォームを意識しているので、シンプルな筋力はみんな上がってきていると思うんですが、それにプラスしてトレーニングで覚えた身体の使い方を野球にもだんだん応用できるようになってきた気がします」

加藤、足立両選手と共に夏の甲子園でベンチ入りした加賀城祐志投手(2年)もサンプレイの指導は貴重な時間と証言する。

「月に数回、いつもと違うメニューを教えてもらうので身体に新たな刺激が入りますし、トレーニングの新しいアイデアをもらって、実際に自主トレの時に取り入れたメニューもあります。最近はピッチングの時の右足の踏み込みや左足の引きつけの部分ですごく安定している実感があって、これもウエイトのおかげかなと思います」

取材の日はサンプレイの中村定雄チーフトレーナーが「下半身強化」などのテーマで主力選手に指導を行っていた。

たとえば2人1組で行うトレーニングでは、1人が10㎏のプレート持ち、脇を締めて行うスクワットや左右に身体を振るツイストをそれぞれ50回×3セット行う。その間、もう1人は相手が膝に挟んだタオルを引っ張る。腿の内転筋強化と下半身の安定、下半身の力を体幹に伝えるという複数の効果が同時に期待できる効率的なトレーニングだ。

そのほかにも「腕立て10回」と言いながら、深く腕を曲げた状態で10秒間キープさせるなど、ちょっと〝小技〟を効かせて強度を上げるゲーム感覚の種目が少なくなかった。「きつい!」「やべー!」選手たちの反応は正直で、明るい。中村トレーナーが言う。

「慶應高校は〝エンジョイ・ベースボール〟ですが、トレーニングだって、どうせキツイなら楽しい雰囲気でやったほうがいい。みんなで張り合いながら、協力しながらの"エンジョイ・トレーニング"。その雰囲気は宮畑会長が指導されている時から変わらないですし、『球児たちが怪我をしないための身体づくり』というトレーニングの真の目的も、会長から引き継いだものです」

サンプレイの創立者である宮畑豊会長は、自身がトップボディビルダーとして活躍しただけでなく、幾多のボディビルダーやスポーツ選手の指導でも知られる。今年5月、惜しまれつつ81歳の生涯を閉じたが、慶應高校へは体力の続く限り自ら出向き、部員たちの指導に当たっていたという。

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取材:藤村幸代 撮影:舟橋賢(初出:IRONMAN2023年12月号)

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