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「筋力もないのにオラオラした自分がダサく思えた」人生を明るい未来に変えたメンズフィジークとやり投げの二刀流現る

2月26日に開催されたマッスルゲート関西新人戦。そこに将来有望な逸材が現れた。メンズフィジーク176cm超級と新人の部176cm超級で優勝した角田直之選手、その正体は国内屈指の実力を持つやり投げのトップ選手である。この取材当日は東京陸上競技選手権で優勝し、10月の国体への出場が内定したばかり。陸上とメンズフィジークの二刀流アスリートの実像に迫った。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中島康介

ーーもともとは野球をやられていたそうですね。
角田 そうです。小学校の校庭でやっていた軟式のクラブチームの練習に自分から勝手に参加して、結果的にそのままチームに入れてもらいました。
ーー野球をやりたいという願望があったのですね。
角田 父親がアマチュアで野球をやっていて、パーフェクトピッチングを達成した試合を見て、憧れてはいたんです。小学校3年生までは軟式のクラブチームでやって、 小学校4年生から硬式のリトルリーグのチームに入りました。
ーー野球はいつまで続けたのですか。
角田 高校2年生の秋までです。高校にはスポーツ推薦で行かせてもらったものの、当時ちょっとヤンチャをしていまして…。トラブルが原因で野球部を自主的に退部したんですが、学校生活に厳しい野球部を辞めたことによって、より学校生活がだらしなくなってしまいました。
ーーあらら…。
角田 そのときの生徒指導部の先生が陸上部の顧問の方だったんです。このままでは進級にも関わるから掃除などの奉仕活動をしながら陸上部の練習に参加することになり、そこで生活が一変しました。(野球で培った)肩を生かせるやり投げを始めることになったのですが、スナッチで同い年の女子よりもウエイトを挙げられなかったんです。それがめちゃめちゃ悔しくて。筋力もないのにオラオラしていた自分がすごくダサく思えました。
ーー陸上との出会いが人生の転機になったのですね。
角田 また、陸上部の同級生に学校で一番身体能力が高いやつがいて、彼には何をやっても勝てませんでした。彼に追いつくにはどうすればいいのか、陸上で強くなるにはどういった日常を送ればいいのか。そういったことを追求していくうちに生活が変わって、それまでは全校朝礼で最後に一番後ろに並ぶような感じだったのが、卒業するころには列の一番前で率先して「はい、みんな並んで!」と声を掛ける、学校イチ真面目な生徒になっていました。
ーースポーツの力ってすごいですね。
角田 顧問の先生との出会いが大きかったです。そして記録もどんどん伸びていきました。やり投げを始めたのは高校2年生の秋からなので、インターハイに出られるのは3年生の年が最初で最後になります。でも、インターハイに出られるくらいまで記録を伸ばすことができたんですが、膝をケガしてしまい、結局インターハイへの出場は叶いませんでした。その悔しさもあって、推薦で進学させていただいた日体大でも陸上を続けました。
ーー野球の技術はやり投げでも生かせるものなのですか。
角田 地肩は生かせたと思います。僕は野球の「走・投・守」の中でも「投」が一番強く、遠投が得意だったんです。遠投の投げ方とピッチャーの投げ方は微妙に違うのですが、遠投の投げ方とやり投げの投げ方は、体の使い方に類似する部分が多いです。実際に、やり投げを始めてから球速が上がりました。大学生のときに「ジャンクSPORTS」という番組に出させていただいたことがありました。他競技の選手が硬式野球ボールで遠投をするというもので、当時は球速148㎞、遠投では130m、ライナーで投げて約110mを投げました。ただやり投げのトップ選手は、みんなそのくらいは投げます。
ーーちなみに、ボディビルの横川尚隆選手とは高校の同級生なんですよね?
角田 そうなんです。1年生のときに尚隆は陸上部でした。尚隆はすぐに退部して、陸上部ではすれ違いになったのですが、一緒に食事に行くことはありました。大学生になってからも、共通の友人と3人で原宿のスイーツ食べ放題のお店に行ったり。尚隆もかなり頭のネジが外れたタイプの人間なので(苦笑)、あそこまで登り詰めるのも納得できます。やると決めたら徹底的にやる性格ではあったので。
ーー角田選手は大学でも陸上を続けますが、日体大の陸上部もかなりレベルが高いと思います。
角田 周りの同級生たちはみんなインターハイの出場者でした。インターハイに出たことがなかったのは僕ともう1人くらいしかいなかったんです。だから、「全員倒してやる!」という気持ちで取り組みました。その結果、1年でベストを10m以上伸ばすことができ、1年目から全日本インカレに出場できるところまでいけました。
ーー食事量も多かった?
角田 食べていました。僕は実家が東京にあるのですが、食事や生活環境も大事にしなければいけないと思い、大学の寮に入りました。
ーー当時のトレーニングの内容はどういったものだったのでしょう。筋肥大というより、競技パフォーマンス向上を目的とした種目で構成されていた?
角田 そうです。クイックリフトとBIG3を徹底してやりました。
ーー大学のトレーニング室では他競技の部員の選手たちとも一緒になると思います。そこでウエイトリフティング部の選手たちとの交流などは?
角田 それこそクイックリフトに関しては、ウエイトリフティング部の監督さんに指導してもらうこともありました。また、日本代表の山本俊樹さんにも一度、指導していただいたことがあります。
ーー常に自分よりも凄い人が周りにいたのですね。
角田 だから、周囲の環境にはとても恵まれていました。決して鼻を高くできるような環境ではなかったので。
ーー卒業後はゴールドジムを運営する株式会社THINKフィットネスに入社して、陸上部に所属しました。
角田 今年で入社6年目になります。ちょうど僕が入社する前年の2016年にゴールドジムの陸上部が発足したんです。
ーー今年はマッスルゲートの新人戦に出場されました。コンテストに興味を持った理由は何だったのでしょう。
角田 高校の同級生に尚隆がいて、一学年下にサマースタイルアワードのプロビキニの堀田愛選手、一学年上にはメンズフィジークIFBBプロの石本ファルーク選手がいて、なんとなく「かっこいいな」という印象は持っていたんです。大学時代には、3年生か4年生くらいのときにバーベルクラブが発足して、当時の部員の望月あもん君に「角田さんもメンズフィジークに出たら勝てそうなんですけどね」と言われたこともありました。
そして、ゴールドジムに入社して最初に配属されたのが町田店で、そこには高校生の相澤隼人君がトレーニングに来ていました。尚隆と隼人君はボディビルでチャンピオンになって、あもん君は東京選手権のメンズフィジークで優勝して。身近にいた人たちが成績を残していったこともあり、常に興味を持っていました。
ーー陸上界にはボディビル的なトレーニングに否定的な意見を持つ人もいるのではないでしょうか。
角田 実際に否定派の人は多いです。でも、よく「使えない筋肉」と言われますが、それは「使えない」のではなく、「使いきれていない」んだと思います。練習次第では、(ボディビル系トレーニングを取り入れることで)パフォーマンスは上がると思います。
また、パワーリフティングもそうだと思うのですが、体重が同じ80㎏でも筋肉質な体の80㎏と体脂肪が多い80㎏とはパフォーマンスが違うはずです。これは陸上でも同じことが言えます。陸上は階級制ではないのですが、やり投げでも100m走でも、トップ選手の体に無駄な脂肪はついていないものです。(競技パフォーマンスの向上に)「除脂肪」はカギになってくると思っていました。
ーーただ、これまでサイドレイズのような細かい種目はやってこなかったのではないでしょうか。
角田 正直、全くやっていませんでした。(陸上の)シーズン中に鍛える部位は背筋や脚などがメインになります。サイドレイズをやるようになったのはコンテストの3カ月ほど前からです。昨年のシーズン終了後に肩鎖関節脱臼してしまい、いずれにせよ肩を鍛える必要に迫られていたんです。
ーーやり投げの選手としても肩を強化しなければいけなかったのですね。
角田 ケガをした状態で肩のトレーニングを行うと、やり方によっては状態を悪化させてしまいます。だから、インナーマッスルを鍛えるためにチューブでやってみたり、角度を変えてみたり…と試行錯誤をしながら自分に合ったサイドレイズのフォームを探していきました。結果、当初は手術が必要なレベルだったものの、手術せず完治させることができました。
ーー全身を連動させるクイックリフト系と対象筋に効かせていくボディビル系トレーニングは、どちらも「筋トレ」という言葉にまとめられがちですが、トレーニングの方向性としては真逆です。
角田 なので連動性を失わないように陸上の練習も並行して実施しました。(ボディビル系トレーニングで)筋肉が発達すれば、発揮できる筋力も上がります。だから減量中もパフォーマンスが落ちたという実感はありませんでした。逆に体重が落ちてスピードが向上しました。
ーー本格的な減量を行うのは今回が初めてだったのですか。
角田 本格的な減量は初めてでした。それまでは(プチ減量を)なんとなくやって、中途半端に終わってパワーダウンしてしまうことが多かったです。
ーー減量幅は?
角田 3カ月で10㎏ほどです。マッスルゲートが行われたのが2月末で、翌年度のシーズンインは4月から。なので、「コンテストが近づく=陸上の試合が近づく」ということでもあったので、あまり落としすぎたくはなかったです。正直、もっと絞れたと思います。
ーー疲労に関しては?
角田 結論から言えば、しんどくはなかったです。ベースの体重が92㎏前後で、頑張って食べて90㎏以上を保っている状態です。そこから陸上の試合に向けて少しダイエットをして、いつもシーズン中は大体88㎏くらいの体重になるんです。だから、そこまではスムーズに落ちました。そこからは筋量を落とさないように、2カ月半かけて5kgほど落としていきました。
ーー食事はどういったものを?
角田 そばとか芋とかいろんな炭水化物を試したんですが、最終的に白米と鶏胸肉という組み合わせに落ち着きました。白米の量は1日に2合から3合です。胸肉は1日600gほどでした。
ーー減量食としては結構な量ですね。
角田 結構食べられました。陸上の練習でかなり走るので、そこでもかなりカロリーを消費していたとは思います。
ーーマッスルゲートでは176㎝超級と新人の部176m超級で優勝されました。結果はどのように受け止めていますか?
角田 短期間で良い結果を出せたと思います。ただ、ボディメイクに関しては「やりきった」という感覚はありません。皮一枚になる状態にまで絞りきれたかといえば、そうではありませんでした。また、トレーニングもBIG3が中心で、細いアイソレート種目を継続する期間が短かったです。そういった種目をもっと継続すれば、もっといい体を作れたのではないかと思います。
ーー陸上競技にフィードバックできそうなものはありましたか。
角田 やはり食事面です。僕には白米が合っていて、「これを食べれば力を出せる」という食材を見つけることができたのが良かったです。また、水分の摂り方も勉強になりました。 これまでの試合では攣ってしまうことが多かったのですが、(コンテスト直前の水分調整で)攣らないようにするにはどれくらい水分を摂ればいいかなどが分かりました。
ーー最後に選手としての目標を教えてください。まずは陸上選手としては?
角田 日本選手権で上位入賞です。また、今の僕の記録は76mで、80m以上を投げている選手は歴代でもまだ10人ほどしかいないんです。その80mスローを達成したいです。
ーーメンズフィジーク選手としては?
角田 マッスルゲートで優勝させていただいたので、これでクオリファイを獲得できたのであれば年末のジャパンカップに出場したいと思っています。僕の本職はあくまで陸上ですが、ジャパンカップはちょうど陸上のシーズンオフ中に開催されるんです。
10月初旬には東京都の代表として国体に出場します。減量してもパフォーマンスは落ちず、むしろ陸上にとって有効になることが分かったので、常に脂肪をのせない状態でしっかりとトレーニングを行いつつ、国体が終ってからの約1カ月間でしっかりと絞り切れるように調整したいです。

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