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高重量でなくとも筋肉に強度の高い刺激を与えることのできるトレーニング

圧を加えて血流を操作する

筋肉に圧を加えて血流を操作するやり方は「加圧トレーニング」と呼ばれ、発明したのは日本の佐藤義昭博士である。

加圧トレーニングでは腕や脚に圧をかける専用バンドを巻き、対象部位の運動を行っている間は血流が制限される。この方法を佐藤博士が考案したのは1960年代のことだ。何十年もの歳月をかけ、彼は血流を制限するために圧をかけたやり方を確立していった。

血流を制限するといっても、完全に遮断してしまうわけではない。つまり、加圧トレーニングでかけられる圧力は決して無計画なものではないということだ。計算された圧力をかけることで、制限されながらも対象筋中に血液が流入するが、運動中は対象筋中に血液をとどめておくようにするのだ。

それで何が起きるのか。これまで何度か紹介した「メタボリックストレス」という言葉を思い出してほしい。メタボリックストレスは、トレーニングによって筋中に蓄積される代謝物質である。これらの代謝物質が成長ホルモンの分泌を促したり、タンパク質の合成を増加させたりすることがわかっているのだ。また、筋中の血流量が増加するので、パンプアップした状態が作られ、様々な筋発達のための反応が起きやすい環境が作り出されるのである。

加圧トレーニングでは高重量は用いない。必要ないのだ。軽い負荷でも強いメタボリックストレスが作り出され筋肉がパンプアップするので、関節や靱帯、腱への負担が極めて少なく、ケガを負うリスクは最小限に抑えられる。このことは、特に中高年のトレーニーには朗報だ。高重量を使わなくても対象筋を追い込むことができれば、効果的なトレーニングを安全に続けていけるのである。

【ジョン・ミードウのケース】

マウンテンドッグの愛称で知られたボディビルダー、ジョン・ミードウは、血流を制限するトレーニングを積極的に行っていたトレーニーのひとりである。

アメリカではジョンのYouTubeを見て、血流を制限するトレーニングについて知ったという人も多いはずだ。彼は生前、多くのボディビルダーを育て、一緒にトレーニングし、この業界に貢献した人物の一人である。しかし、残念ながら2021年8月に亡くなってしまった。この場を借りてジョン・ミードウに哀悼の意を表したい。

ジョン・ミードウが使っていたのはパテントのある加圧バンドだ。彼はこのバンドを膝に巻いてワークアウトを行っていた。ニーバンドでも代用できるという人もいるだろうが、前述した通り、加圧トレーニングでの圧力は計算されたものであり、自己流で圧をかけるのとは全く異なることを強調しておかなければならない。

加圧トレーニングでは最も強い圧が10で、ジョンが用いていたのは7のレベルでの圧だ。ジョンは四肢にバンドを巻く際は、これ以上強い圧をかけることは好ましくないと主張していた。強すぎると感じたり、麻痺する感覚が起き始めたら、必ず緩めるようにジョンは常々指示していた。

脚に巻く際は、股関節に近い大腿部に巻くのがいい。また、らせん状に巻かないこと。つまり、巻くときに隙間ができないようにし、そのためにも長すぎるバンドは用いないことが勧められるのだそうだ。

圧をかけるやり方でワークアウトを行う場合でも、ジョンは必ずバンド無しの状態で数セットのウォームアップを行った。その後、加圧バンドを使って1RMの20~40%程度の重量で種目を行った。

1RMの20~40%で本当に効くのか疑ってしまうという人は、実際に試してみるといい。血流を制限する方法を用いると、軽い重量であっても動作は猛烈にきつく感じられるのだ。このトレーニングはまさに拷問級である。

本番セットを開始して、わずか5分で状況は変わる。これほど軽い重量での動作なのに、5分後には床に倒れ込んでしまいたくなるほど強烈な刺激が対象部を襲うのである。

【ジョン・ミードゥの大腿四頭筋のワークアウト】

①レッグエクステンション
圧をかけるバンドを巻いたら、1種目目はレッグエクステンションだ。行うのは1セットだけだが、この1セットの内訳は4つのミニセットで構成される。つまり、レップを行って休憩し、再びレップを開始するやり方を4回繰り返す。ミニセット間の休憩は10秒間とし、それ以上は休まないようにする。

4つのミニセットで、合計15~20レップを行う。たとえば動作を開始して6レップ目で限界が来たら10秒間休憩(1ミニセット)、レップを再開して5レップ目で限界が来たら再び10秒休憩(2ミニセット)、さらに動作を再開して4レップ目で限界が来たら10秒休憩(3ミニセット)、最後は2レップで限界を迎えたら(4ミニセット)、ここで4つのミニセットで構成されたレッグエクステンションを終える。

行ったレップ数は6+5+4+2=17レップになる。ミニセット間の休憩は、バンドを巻いたままで10秒以内にとどめるようにしよう。用いる重量は1RMの20~40%に設定する。

4つのミニセットを終えたらバンドを外す。このときの感覚は経験したことがなければわからない。たとえようのないパンプ感を味わうことになるはずだ。

②レッグプレス
すでにレッグエクステンションで強烈な刺激が得られたわけだが、脚のワークアウトはまだ終わりではない。次はレッグプレスだが、レッグエクステンションを終えたあとであっても本番セットに入る前に必ずウォームアップセットを行っておこう。ウォームアップセットでは加圧のバンドは使わない。

ウォームアップを終えたらバンドを巻き、この種目でも4つのミニセットで構成された1セットを行う。総レップ数は15~25レップ。ミニセット間の休憩は10秒以内とし、休憩中もバンドは巻いたままにしておく。もちろん、この種目でも軽い重量に設定する。

③スクワット
最後の種目はスクワットで、ジョンはマシンを使っていた。また、彼はスクワットでは加圧せず通常のやり方で行っていた。丁寧な動作で3セットを行う。ゆっくりとしゃがみ、ボトムで一旦停止した後、素早く瞬発力を活かして立ち上がる。トップでは膝をロックさせない。膝を伸ばしきらなければ、大腿四頭筋から緊張が抜けることはない。セットを終えるまで、大腿部の緊張を持続させ、積極的にメタボリックストレスをかけることを意識しよう。

④ストレッチ
3種目を終えたら、最後はしっかり大腿四頭筋をストレッチさせる。ここで行うストレッチはジョン・パリーロが推奨したストレッチだ。高めのベンチ台などを背にして立ち、片脚を後方のベンチ台に乗せ、大腿四頭筋をしっかりストレッチさせる。ここで使うベンチ台はレッグエクステンションマシンと同じ程度の高さのものが理想だ。

こうして大腿四頭筋をストレッチさせると、3種目で強い緊張が続いた大腿四頭筋の筋膜をしっかり伸ばすことができる。筋膜が伸びればそこに血流が流れ込むので、疲労回復が促される。最後は必ずストレッチで締めくくろう。

ストレッチの時間は1分程度だ。①~③の種目を高強度で行っていれば、最後に行う1分間のストレッチは決して簡単ではないことがわかるはずだ。

ここで行うのは緊張をほぐしてリラックスするためのストレッチではない。筋膜を伸ばして血液を送り込むためのストレッチである。

【他の部位での活用】

圧をかけるやり方は、大腿四頭筋だけでなくハムストリングにも行うことができる。大腿四頭筋のレッグエクステンションで行ったように、レッグカールも4つのミニセットからなる1セットを軽い重量で行えばいいのだ。ハムストリングのパンプが得られにくいという人はぜひ試してほしい。

腕に行うときは上腕部に加圧バンドを巻いて行う。カールやプッシュダウン、トライセップスエクステンションなどの種目を行ったり、あるいはスーパーセットで2つの種目を組み合わせて行ってもいい。その場合、たとえばバイセップスカール1セット、トライセップスエクステンション1セットを連続して行い、これをトータルで4サイクル行うようにする。

ビンス・ジロンダのデンシティトレーニング

「アイアングル」で知られたビンス・ジロンダは、ボディビル界の黄金時代に数多くのチャンピオンを輩出した伝説のトレーナーだ。彼の指導に定評があったのは科学的で理論的だったからだ。おそらく、トレーニング界に「科学」を持ち込んだ最初のトレーナーだったのかもしれない。

当時は、まだアミノ酸についての知識を持っている人は少なかったが、ジロンダは筋発達を促す目的ですでにアミノ酸を利用していた。彼のトレーニング方法についても、時代の最先端をいくテクニックが盛り込まれていた。ボディビルに関して言うなら、ビンス・ジロンダは時代のはるか先を走っていたのだ。

軽い重量を使って筋発達を促す「デンシティトレーニング」も、ジロンダが編み出したトレーニング法である。これは8レップ×8セットで構成された実にシンプルなワークアウトだ。

軽い重量で8レップのセットを8セット行うだけなので、トレーニーは安心して対象筋に全エネルギーを注ぎ込むことができそうに思えるが、実際にやってみると猛烈にきつい。その理由は、セット間の休憩時間が最長でも30秒間だからだ。さらに、セット間の休憩時間はワークアウトのたびに短縮されていく。

8レップ×8セットしか行わないのに、セット間休憩がワークアウトのたびに短くなっていくので、ワークアウトの所要時間もどんどん短くなっていく。つまり、デンシティトレーニングとは「濃縮されたワークアウト」なのだ。ちなみに、デンシティとは密度という意味で、まさに密度の高いトレーニング法なのである。

【ビンス・ジロンダの指導シーン】

デンシティトレーニングをクライアントに指導する際、ジロンダはトレーニーがバーから手を離さないように指示していた。

通常、1セットを終えたところで、ウエイトを床やラックに置いて手を離すが、ここではバーを握ったまま離さないようにする。

トレーニーがバーを握ったまま10~15回ほどの呼吸を終えると、ジロンダはすぐに次のセットを始めるように指示を出す。彼の指導方法はあくまでも筋肥大を最優先したもので、筋力向上が目的ではない。「軽い重量+最小限のセット間休憩+量の多い運動」を短時間に詰め込んだのがデンシティトレーニングである。

ジロンダが指導したクライアントの中には有名な俳優たちもいた。配役によってはクランクインまでに短期間で肉体改造する必要があったので、ジロンダのデンシティトレーニングはまさに打って付けだったようだ。筋肥大だけでなく、トレーニング量も多いので体脂肪も効率よく燃焼した。

おそらく、多くの人が筋量増加と体脂肪減量の両方を同時に進めることは不可能だと思うだろう。しかし、ジロンダの意見は違っていたし、実際に求めた結果が得られたからこそジロンダを頼って俳優たちが彼の指導を受けるために集まってきたのである。

効果の真偽を確かめるためには、デンシティトレーニングを試してみるのが一番早い。実践する際の注意事項を以下に解説しておこう。

【デンシティトレーニングで守るべきこと】

●1回のワークアウトにかける最長で60分だが、30~45分以内に終わらせるのが理想だ。
●濃縮されたワークアウトは体内のテストステロンレベルを高い状態で維持しやすく、コンディションを整えるのに役立つ。
●軽い重量を使い、セット間の休憩は最長で30秒とする。セット間の休憩時間はワークアウトごとに短くしていく。

【部位別のワークアウトを作る際の注意点】

●部位ごとに3、4種目から構成されたワークアウトにする。
●全種目に8レップ×8セットを試してみてもいいが、それはあまりにも過酷だ。選択した1種目だけに限定し、それ以外の種目は通常のやり方で行うほうがいいだろう。その場合、8×8のデンシティトレーニングは、各部位の最後の種目に採用する。
●たとえば胸のワークアウトは以下のような内容になる。
①ディップス
12レップ×2、3セット
②インクライン・スミスマシンプレス
10レップ×2、3セット
③ケーブルクロスオーバー
8レップ×8セット(デンシティトレーニングを用いる)
※このワークアウトは、あらゆる角度からの胸を刺激することができる。また、最後の種目で8×8を用いるので、強烈なパンプを得て終了することができる。
また、高重量は避けたいので、8×8を用いる最後の種目だけでなく、最初に行う2種目も軽めの負荷を用いる。軽い負荷でのトレーニングは、下ろす動作をできるだけゆっくり行うようにして強度を高めるようにする。
楽に行えるようでは筋肥大を促すことはできないので、軽い負荷であってもセット間休憩を短縮したり、スローモーションでネガティブを行ったりして強度を高める工夫をしよう。

【全身を上半身と下半身に分ける際の注意点】

●ジロンダがクライアントに用意したワークアウトは、全身を上半身と下半身に分けたものだ。そして、各部位に選択した1種目だけに8×8を採用した。
●その場合のプログラムは以下のようになる。
[ワークアウト1:月・水・金曜日]上半身
[ワークアウト2:火・木曜日]下半身

最後に

筋肥大が目的なら、骨にまでガツンとくるような高重量は必ずしも必要ではない。特にクラシックなフィジークを作ることに専念しているなら、軽い負荷で強度を高めたやり方のワークアウトであっても達成は可能だし、ケガを避けたいならなおのことだ。

軽い負荷を使うことのメリットはもうひとつある。それは筋肉と神経の連動を高めることができる点だ。軽い負荷なら丁寧に動作を行うことができ、対象筋への意識が高まる。また、筋肉の収縮と伸展をしっかり感じることができ、効いている感覚をつかみやすくなるはずだ。効く感覚をしっかりつかんだレップを繰り返すことで、メタボリックストレスを強めながら筋肥大を目指すことが可能になるのだ。

今回紹介した2つのトレーニング法は、筋肥大だけでなく体脂肪の減量もかなえてくれる。しかも効率がいいので、短時間でワークアウトを終了させることができる。忙しい現代人に適したトレーニング法なので、ぜひ試してみていただきたい。

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執筆者:William Litz
カナダのウィニペグで活動する有資格のパーソナルトレーナー。過去10年以上にわたり、フィットネス系雑誌やオンライン雑誌にトレーニング関連の記事を執筆してきた。ボディビルに精通しており、熱狂的なボディビルファンでもある。


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