アームレスリングの世界で革命的な強さを発揮している女子アスリートがいる。2023年JAWA 全日本選手権では女子-57kg級、-65kg 級、無差別級の左右で金メダル6個を獲得。さらにはWAF 世界選手権女子-55kg 級を制覇した竹中絢音選手である。2022年には、AJAF 全日本選手権の男子の部門でも優勝。そのトレーニングの方法と考え方に迫った。
発売中のウエイトトレーニング専門雑誌『IRONMAN』に掲載の「竹中絢音 勝ち続けてきた理由 それは『逃げないから』/取材・文:藤本かずまさ」より内容を一部抜粋してお届けします(全内容はIRONMAN2024年2月号でお読みいただけます)。
――アームレスリングにおいての「力」と「技」の割合はどのようなものなのでしょうか。
竹中 これは難しいのですが、結局のところ「力」と「技」はつながっているんです。「力」の中にしか「技」は生まれないと思っています。その「技」を使うためにも「力」が必要になるので、割合となると難しいですね。
――もともと力は強かったのですか。お父さんの竹中健さんもアームレスラーです。
竹中 そうですね。力が強い家系だと思います。私も保育園のころからずっと腕相撲をやっていて、腕相撲では誰にも負けないという自覚は小さなころからありました。
――これまでアームレスリングで挫折を感じたことは?
竹中 それが、なくて困っているんです。これまでにも負けたことはあるんです。また、伸び悩んだ時期や迷った時期もありました。でも、そのあと、何とか克服することはできたんです。だから、「挫折」というものが分からなくて、その(挫折を感じる)タイミングがきたとき、私はどうなってしまうだろうという不安はいつもあります。
――悔しさは?
竹中 それはずっと感じてきました。自分で思ったような試合ができなかったときもそうですし、練習中に「何でできないんだろう?」と自分の弱さにへこんで、悔しくて泣くこともあります。
――こんなに強いのに、弱さにへこむことがあるのですか?
竹中 いやもう、ずっとへこみ続けています。私は中学3年生のときに全日本で優勝して、高校1年生のときに3階級で勝って、そこで誰にも負けてはいけない立場になったんです。だから、圧倒的な存在でなければいけないという理想像と、今の自分の現状とのギャップにへこんでしまうということが多々あります。
――勲章やタイトルという部分で、ご自身の中でモチベーションにしているのは?
竹中 勲章やタイトルにはあまり興味がないんです。もともと私には世界大会で優勝したいという目標があって、それを2023年に実現したのですが、思ったほど達成感を抱けなかったんです。それよりも、「どうしよう……」という気持ちのほうが強かったと言いますか。
――私が世界一でいいの? という感覚ですか。
竹中 そうです。私はまだ世界チャンピオンと呼ばれるほど強くないのに、という気持ちがあるんです。 だから、世界タイトルを取ったからということではなく、私自身が純粋に強くならないことには満足できないんじゃないかと。
――連覇に対しては?
竹中 自分が強くなっていることを確認するために、連覇はしようと思っています。
――竹中選手のようなアスリートは、「素質」の一言で片付けられてしまうこともあるかと思います。
竹中 ただ、私は素質に恵まれているほうではないと思います。競技の特性上、同じ階級ではテコの原理などを考えると身長が高くて脚がそれほど筋肉質ではない選手のほうが有利です。私は世界大会になると、自分の階級の中では1番目、2番目くらいに背が低いんです。腕もそれほど長くはありません。 だから、素質があるわけではないんです。
――そうした中で、これまで勝ててきた要因は?
竹中 逃げないから、かもしれません。実戦練習は対人で実施するので、楽しくて、自らすすんで行う人が多いです。でも、トレーニングをおろそかにする選手も少なくはなく、女子選手は特にその傾向があるように思います。「楽しいからやる」だけの人と、つらくても、自分にとって必要なトレーニングに目的意識を持って取り組んでいる人とでは、差が出ると思います。私は「楽しいからやる」というところだけに逃げたくはないんです。
また、試合の攻め手についてももそうです。相手から逃げるような攻め方もあるのですが、私は自分の力を相手に当てにいって、そして打ち勝つ闘い方を続けてきました。そうした逃げない闘い方をしてきたから、勝ててきたんだと思っています。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩 (初出:IRONMAN2024年2月号)