トレーニング

悲願のトップ3入りで加藤直之が語ったものとは?その裏にあった病気と家族への愛

――仕事との両立を考えていく上で、トレーニング時間も限られた時間の中で捻出していく必要があります。
加藤 私のトレーニング時間は比較的短く、1時間、長くなっても1時間半ほどです。これは昔からの習慣です。スーパーマーケットで働いていた時期があるのですが、そのころは本当にトレーニング時間が取れず、休憩時間にバックヤードで10㎏のミカン箱を持ってサイドレイズをやっていたくらいです。ですから、トレーニングは集中して1時間で終わらせるというのが染みついています。ただし、その1時間に自分の今日やれる全てをぶつけていきます。もちろん出し切れない日もありますが、それはまた次回の課題とします。また、いつどのような状況、環境でもトレーニングはできるように心がけています。いい意味でこだわり過ぎない、と言いましょうか。また、1種目1セットでオールアウトできる領域に達せられる精神力を身につけたい。究極ですよね。肉体的限界と精神的限界が限りなく近くなる、そんなトレーニングを目指しています。日常的な刺激だけでは筋肉は発達しないと思います。非日常的な刺激を与えないといけません。その手段として、私には長時間のトレーニングよりも、短時間でガツン!と刺激を入れるほうが合っているのかもしれません。
――短時間のトレーニングで重要になってくる要素は何でしょうか。
加藤「重量」です。もちろん重量だけではないですが、短時間で非日常的な刺激を与えるのは、それなりの重量を持つ必要があると思います。ビッグ3の重量を伸ばしていくのが私のトレーニングの原点でした。
――昨年から今年にかけて、トレーニングで変化させたことはありますか。
加藤 重量を追い求めすぎた結果、去年は左肩と古傷であった左肘をひどく痛めてしまいました。そこでトレーニング内容を見直して、かなりシンプルで種目を絞ったものにしました。各部位3~4種目で追い込むという内容です。その中で意識したのは高重量をやりすぎないことです。胸の種目はフラットのプレス系しかできなかったのですが、重さを持つセットは1~2セットまでにしました。ディセンディングしながら、インターバルは1分に保ちます。また、種目選択は自分にとって筋肉に重量を乗せやすいものを選びました。これは16年間トレーニングを行ってきた中の感覚的なものなのです。最近はベンチプレスよりも、ダンベルプレスのほうが感覚的によいのでそちらをチョイスしています。
――分割はどのようにされているのですか。
加藤 「胸」「脚の前」「脚の後ろ」「背中のロウ系」「背中のラット系」「肩」「腕」の7分割です。これを1サイクル回し、加圧サイクルトレーニングで上半身を軽めの重量で行う日を1回入れます。加圧サイクルトレーニングを行うことで血流がよくなって、肩甲骨、肘の可動域が広がります。重量にはこだわらず、上方向、前方向、下方向のプレス、そして上方向、前方向、下方向のプル、これを肩甲骨と肘関節の動きを意識しながら30分ほど行います。
――食事面はいかがでしょうか。
加藤 ボディビルですから筋肉量を残し皮下脂肪を最大限に落とすことが最重要ですが、今シーズンは健康がテーマとして第一にあったので、いろいろなものを食べるようにしました。種類が多いほうが栄養素も偏りがなくなると考えたためです。特に炭水化物、野菜に関しては一つのものにこだわらず、玄米、サツマイモ、カボチャ、オートミール、緑黄色野菜を満遍なく、といった具合に多種類を食べるようにしました。私の場合は1日の摂取カロリーを約3000キロカロリーに設定して、その中で収まるように食べ物を選んでいます。今年は約2000~3000キロカロリーの幅で収まるようにしました。今年は感覚を頼りにやっていた部分が大きいです。感覚というのは体の疲労度合や体調がどうかということ。摂取カロリーは例年のように細かく計算しませんでした。トレーニングも食事も、感覚に従った部分が大きかったです。その感覚はこれまでの知識と経験の中から引き出されたものです。その感覚に従っていったらよい結果が導き出せました。
――加藤選手は以前「大会当日はヘロヘロな状態よりも元気なほうがいい」とおっしゃっていました。今年はいかがでしたか?
加藤 元気でした。元気というのは体調がよかった、という意味です。その中で絞りは例年よりも強めでした。ここは感覚ではなく、体重を計りながら例年よりも500g ほど絞った状態で仕上げるようにしました。いつもは70㎏くらいですが、今回は69・5㎏ほどで仕上げました。
――日本選手権の3週間前に行われた日本クラス別選手権ではどうだったのでしょう。
加藤 70㎏弱でした。そこから500g ほど絞ったのです。私は世界選手権に出場することを目標にしていたので、日本クラス別に照準を合わせていました。しかし、優勝できませんでした。そこから日本選手権に向けてできることといえば、より絞り込むこととポージングの改善の2点です。この2つをやり込みました。日本クラス別の結果で気を落とさず、そこで自分を見つめ直し、課題点の改善に取り組みました。
――ケガを悪化させないという課題もありました。
加藤 悪化させないための工夫をして、無茶なことはやらなかったのがよかったのかもしれません。一般的な部分ですが、無理やりなフォームではやらないようにする、痛みが出る動きは行わない、などです。ケガを悪化させないぎりぎりのラインで追い込んでいくイメージです。若いうちは多少無理がききますが、年齢を重ねるにつれ、1つのケガが致命傷となる恐れがあります。無理なフォームで挙げるのはケガにつながります。安全かつ重量が扱えるフォームでやっていくようにしました。
――2017年の12位という結果はいい発奮材料になったように思えます。
加藤 そうですね。そこで学ぶものが多かったです。娘に少しでもかっこいいところを見せたいという気持ちもありました。12位になったとき、長女が悲しそうにしていたのが切なくて。今回は3位になって、すごく喜んでくれました。そこかもしれませんね、最大のモチベーションは。娘の前ではかっこいい父でいたいです(笑)。

加藤直之(かとう・なおゆき)
1981年生まれ、埼玉県出身。
身長161㎝、体重69~71kg(オン)74~75kg(オフ)。
●主な戦績
2005 千葉県ボディビル選手権優勝
2008 関東クラス別選手権75kg級優勝
2011 関東ボディビル選手権優勝
2012 ジャパンオープン選手権優勝
2013 日本選手権9位
2014 日本選手権11位、日本クラス別選手権70kg級優勝
2019 日本選手権3位、日本クラス別選手権70kg級3位
トレーニング以外の趣味:子どもの寝顔を見ること。「親バカです(笑)」
●好きな種目
ダンベル種目
●減量明けやチートに食べる物
大量の白米、大量のパスタ、甘いもの。「減量中に家族と外食にいくときは、その日にチートがくるように合わせていきます」

取材:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩


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