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「『効かせるトレーニング』のみでは筋肉は大きくなりづらい」現ボディビル日本王者が勝てる身体を作れた理由

昨年の日本選手権で21歳という若さで新王者となった相澤隼人選手は、2019年から21年にかけて「トレーニングの土台」を見つめ直したという。ミライモンスターと呼ばれた男は、トレーニングの再確認作業を実施することで令和のリアルモンスターに進化。そこには情報過多の今の時代により効率的に身体を発達させるためのヒントがあった。

取材・文:藤本かずまさ 写真提供:相澤隼人

トレーニングに潜む「なぜ?」を紐解く

――相澤選手はセミナーなどで、2019年から21年のシーズンに向けて「基礎を見つめ直した」とよくおっしゃっています。
相澤「基礎=土台」と考えていただければ、分かりやすいかもしれません。以前は重量とか回数とか、そういうことばかりを気にしていました。でも、そこだけを見ていても、いずれは絶対に頭打ちになる。また、効かない部位はいつまで経っても効かないままになってしまいます。そういったことを考えていくうちに、土台を見つめ直すことの重要性に気づきました。
――その「トレーニングの土台」とは?
相澤 例えば英語を勉強するときには、まずはアルファベットから覚えます。トレーニングの場合、「種目を覚える」「ダンベルやバーベルの使い方を知る」といったところが土台だと思っている方が多いと思うんです。しかし、英語でいうアルファベットにあたるものが、トレーニングにもあるんじゃないかと思います。
――英語の場合は勉強しないと書いたり読んだりができません。
相澤 でも、トレーニングは最初から種目のかたちはできてしまうんです。ダンベルを持って、何となくそれを持ち上げたらダンベルプレスのかたちにはなります。もちろん最初からしっかりとできる人もいるかと思いますが、大半の方は「だいたいのかたち」ができているだけだと思います。
――その「だいたいのかたち」のままで続けていくと?
相澤 人によるかと思いますが、俗に言う「効かせるトレーニング」のみをやられている方は、重さはそれほど使わないのでケガのリスクは少ないかと思います。ただ、そういった方の中には「重量を伸ばそうとすると効かせづらくなる」という固定観念を持たれている方もいるので、そうなると筋肉は大きくなりづらいです。
以前の私は、その逆のパターンでした。挙上重量を伸ばしたいという方は要注意です。エラー動作が起きていることに気づかず挙上重量を伸ばすことに必死になって、一度外力がかかっただけでケガをすることもあれば、慢性的な疲労が蓄積して、どこかでそれが爆発してしまうこともあります。だから、挙上重量にこだわる方は、土台の部分は注意したほうがいいと思います。
――トレーニング種目も「身体を動かす」ということには変わりはありません。その「身体を動かす」ということに対する土台を作る、ということですね。
相澤 そうです。私のパーソナルトレーニングのお客様にも、身体の硬い方が結構多いんです。だから私の動きを真似しようとしても、その真似自体ができない。そうなると、まずはその前の段階として、可動性関節の可動域をしっかりと確保する必要が出てきます。安定させるべき関節はしっかりと安定させて、可動させるべき関節はしっかりと可動させる。それができるようになるコンディショニングの重要性を改めて実感しました。
――そうしたことを押さえた上でトレーニングをすると、実感的にも全く変わってくるものですか。
相澤 全く違います。ポージングで比較すると分かりやすいと思います。19年と21年のポージングを比べると肋骨の開き具合が全く違うんです。これは呼吸の仕方を変えて、それが試合にも生かせるようになった事例です。
例えば100mダッシュをして息が切れたときは、肩を上下させながら胸を上げて口で浅く呼吸をすると思います。以前の私はそんな呼吸をしていました。しかし、トレーニングでスクワットやベンチプレスとかを行うときは、どちらかといえばお腹を膨らませて腹直筋とか腹横筋とか腹斜筋とかで支える呼吸になっています。いわゆる腹式呼吸というものです。そうした呼吸を行うことで肋骨がしっかりとコントロールできるようになり、 それが結果的にポージングにもつながりました。
――肋骨を閉める、閉めないで具体的にどういったことが変わってくるのでしょう。
相澤 肋骨が開くということは胸式呼吸になります。横隔膜が稼働せずに胸の高さは変わらずに肺だけで呼吸するとウエスト周りに力が入らなくなり、体幹部が安定しません。例えば上半身のトレーニングではダンベルなどを保持して押したり引いたり、または腕を曲げたり伸ばしたりをします。その腕は体幹部についています。つまり、腕の土台は体幹部になるので、その土台を崩さないようにすることが必要になってくるのです。土台を固めることで動作が安定して、狙った部位に対して的確に刺激を入れやすくなります。かつ、ケガのリスクも軽減されます。
――そういったことはその種目のフォームの真似をするだけでは掴めないかもしれません。
相澤 見よう見まねで会得するのは、かなり難しいと思います。私自身も試行錯誤をして、感覚を掴みながら日々アップデートしています。
――そのアップデートする方法は?
相澤 例えば「腹式呼吸」といっても、腹部のどのあたりでするのか。みぞおち付近なのか、それとも横っ腹なのか。トレーニングを継続していく中で、「ここだ!」という気づきが得られるときがあるんです。
鈴木雅選手がおっしゃっていたのは、例えば10回3セット行ったとすると30回気づくチャンスがあるので、それを無駄にしないと。1レップ1レップ全て同じ動作で実施するためにはどのような呼吸をして、どのような足幅で、骨盤をどのように向けて、どれほど胸椎を伸展させて、腹圧をどれほど固めるか。そうした気づきを得られるように意識しています。
また、反対にダメなところがあったら、そのダメなところをノートにメモします。そして、ダメなことは次のトレーニングからはやらないように気をつけます。だから、「ノートをつける」というのは大事かもしれません。
――動作としては同じような動きができたとしても、そこから掘り下げていけば掘り下げていくほどいろんなものが見えてくる?
相澤 私の場合は「なぜ?」というものを探していきました。なぜその種目をやっているのか、なぜそのフォームなのか、なぜその回数なのか。いつも何となくバーを持って、それを胸につけて押し上げているとします。その中にある「なぜ?」を深堀りしていくと、そのフォームの根本が見えてくるはずです。ベンチプレスをやるときはなぜこの位置に足を置くのか。それは内転筋と殿筋に力が入りやすくて、それによって腰椎骨盤帯が安定して、胸椎が伸展した状態でも腹圧を入れやすいから、とか。そうやってつながっていくんです。
おそらくこの雑誌を読んでいる方たちの目的は、筋肉を大きくしたいということだと思います。その目的を達成するためにトレーニングという手段があります。その手段の中にある「なぜ」を探していくのは大事かもしれません。
――また今はSNSなどで、誰でもかんたんに情報を得られるようになりました。
相澤 例えば私も、世界一のパティシエが作ったショートケーキと、コンビニなどで普通に売られているショートケーキを目の前に出されても、判別はつかないと思います。それと同様に、トレーニングを始めたばかりの人は、SNS上の情報の何が正しくて何が正しくないのか、なかなか分からないと思います。
だから、まずはこのような雑誌や書籍などで情報を学ぶというのは大事だと思います。誰でも投稿できるSNSなどとは違い、基本的に一般に流通している雑誌や書籍で活字になっている情報のほうが信頼性は高いと思います。逆に今の時代だからこそ、雑誌や書籍は重要なコンテンツかもしれません。
また、トレーニングで大事なのは「継続」することです。どんな理論を信じようが継続しないことには意味がありません。これがいい、あれがいいと思ってコロコロ変えるようでは何も得られないと思います。


相澤隼人(あいざわ・はやと)1999年10月21日生まれ、神奈川県相模原市出身。身長164㎝、体重75㎏(オン)85㎏(オフ)
トレーニングを先にしていた双子の兄の影響から12歳でトレーニングをはじめ、非常に向上心があり、勉強熱心な性格と成長期が重なったこともあり、すさまじいスピードで成長が進行している若手No.1選手。若手と言いながらも、ボディビル歴8年というから驚きだ。2021年日本選手権優勝の快挙達成。
主な戦績:
2015~2017年 全国高校生選手権優勝、2017年 日本ジュニア選手権優勝 世界ジュニア選手権75㎏級5位、2018年 全日本学生選手権優勝、2019年 東京選手権優勝 日本クラス別選手権70㎏級4位、全日本学生選手権優勝、日本選手権9位、2021年日本クラス別選手権80㎏以下級優勝、日本選手権優勝


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。

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