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北島康介、現役時代のトレーニングを語る 「水に入る時間を削って筋トレをすることに抵抗はなかった」

現役選手は「引き出し」を増やせ

北島康介氏

──今日、取材をさせていただいたようなファンクショナルトレーニングは、いつごろから取り入れているのでしょうか。

北島 北京オリンピックの前あたり、25歳くらいからですかね。現役生活も後半に差し掛かり、痛みと会話をしていくなかで自分の身体をうまく使うために取り入れ始めました。それまでは水中練習と陸上トレーニングとで二分させていたのですが、水に入る前の補強として体幹強化やチューブを使って動きを出してから水中の動きに変換していく、という風にグラデーションを描くようになりました。

──そのあたりの経験が現在のパフォームベタージャパンの設立につながっていくのでしょうか。

北島 僕がアメリカを拠点としていた時期が、ちょうどファンクショナルトレーニングに注目が集まっていた時期だったんです。ご縁があって本国パフォームベターのサミットに参加させていただくことになり、そのときにこういったツールを使いこなせるようにアスリート自身がトレーニングやコンディショニングの知識をつけていく必要があるなと強く感じたことが、ひとつのキッカケでした。あとは、30代まで続けた現役生活を通じて本当にたくさんのトレーナーさんにサポートしていただいてきたことから、トレーニングツールを展開していくことが、日本の優秀なトレーナーさんたちの活躍の場を広めたり、地位向上につなげていけたりするのでは?と考えたのもあります。また、僕は完全にファンクショナル「だけ」がいいと思っているわけではありません。大切なのは、その時々に最適なトレーニング・コンディショニングを取り入れることだと思ってるので、ジャンルで線引きをすることなく、そのあたりの啓蒙活動も含めてまとめて展開していくことができるのでは?と感じたことも、パフォームベタージャパンを設立するに至った理由の一つです。

──「線引きをすることなく」という発想は、大事ですよね。

北島 競技をしていると、そのあたりとてもナーバスになるんですよね。これは良くてこれはダメ、といった決めつけが生まれてくるんです。でも、いざ引退して振り返ってみると「こういうのもやってみたら良かったのかな」と思うことが、正直いっぱいあります。なので、今の現役アスリートには是非、たくさんの引き出しをもって欲しいなと思うんです。頭ごなしに否定をしたり、怖がったりせず、果敢にチャレンジしてみて欲しい。どんな方法を選んでも、自分の身体のこと、競技のことを考えて選んだのなら、最終的にはコンディションも競技成績も良くなることにつながるはずですから。

──北島さん自身も引き出しを増やす意識で、今日のようなトレーニングを定期的に続けているのでしょうか。

北島 そうですね。仕事におけるアイデアを生むためというのもありますけど、シンプルに自分の身体のことは自分がコントロールしないとっていうのが、ベースにありますよ。社会人として健康でいることも一つの責任だと思いますし、キツいときもゼロではないけど、身体を動かすのは楽しいですしね。できるうちは、続けていきたいです。

──では最後に、トレーニング・コンディショニング全般に関して、改めて読者の方々にメッセージをお願いします。

北島 競技の世界は、これをやったら強くなる!というのがない世界です。地道に続けていくことでしか見えてこないものがあるし、たどり着けない場所があります。今はとにかく情報が溢れているから、すぐにほかの誰かや何かと比べてしまう傾向にあるけれど、大切なのは自分自身の身体と対話する時間をたくさんもつことだと思っています。難しいかもしれないけど、外からの情報を遮断する時間を作って、自分で自分の情報収集をする。そのうえで、今「できない」ことを少しずつでも「できる」に変えていくアプローチを積み重ねていくことが、僕は重要だと思います。

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取材・文:鈴木彩乃 撮影:木川将史 取材協力:Best Performance Laboratory

初出:発売中『IRONMAN2024年4月号』

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