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脳から筋肉に「収縮して」と命令したら神経の混乱を引き起こす!?

タイトルを見て、???…というふうになるかもしれません。どういうことかと説明すると、脳は直接一つの筋肉だけに対して動作を命令することは困難ということ。逆に、「肘を曲げる」「しゃがむ」などというように、簡単に言うと関節の動きを伴った動作単位でしか能は命令できないのです。それはなぜなのか、専門家である井上大輔氏が解説します。

文・撮影:井上大輔(NPO法人日本ファンクショナルトレーニング協会)

脳は筋肉に収縮するよう命令することができない

脳から筋肉に直接指令を出すと神経が混乱する!?(タップで拡大)

ここ数年、我々トレーナーの間でも脳や神経に関する働きが注目されるようになりました。その中で一番注目したいのは、「脳は筋肉を収縮するように命令をすることが苦手で、動作単位で命令することができる」ということです。つまり、今まで散々行われていた「上腕二頭筋を意識して」という口頭指示は、効果的ではなかったということになります。このように筋肉を意識して収縮させるということは、脳にとって非常に困難なことなので、神経の混乱を引き起こします。
神経の混乱は筋肉を硬く収縮させるので、結果身体が硬くなるという原因となってしまうのです。このことから昔からスポーツの現場で言われていた「筋トレは身体を硬くする」ということは、あながち間違いではなかったということです。
それでは、どのような口頭指示が効果的なのでしょうか? 正解は「肘を曲げる」というように、動作単位の指示を行う方がより効果的であると言われています。ボディビルやメンズフィジーク競技の世界では、身体が硬くなることより、身体を大きくすることが優先事項になります。したがって、これらの競技では身体が硬くなることは、必ずしも競技に直接悪影響を与えることは少ないと言えます。しかし、その他のスポーツ競技については話が違ってきます。
スポーツの世界では、身体が硬くなること、特に動きが硬くなることは、パフォーマンスの低下を引き起こすので、場合によっては命取りになってしまうのです。そして、スポーツパフォーマンス向上において最も理想的なのは、「何も考えなくできる」ということです。そしてこれはボディビル、メンズフィジークの選手にも当てはまり、要はスクワットを行っているときに、意識せずとも勝手に体幹の筋肉が働いていることが理想ということになります。そうすることで、正しいフォームに神経を集中することができるからです。
今回は、何も考えずに勝手に体幹の筋肉が収縮している「深部反射」という機能を高める種目「バードドッグ」を解説します。ほとんどの人が一度は見たことがある体幹種目です。また、ボディメイクを目的としてトレーニングを行っている人にとっては「どこに効いてるの?」という感じの種目ですが、それで良いのです。この種目は無意識に腹筋の奥が使えるようになるための「深部反射」と呼ばれる機能を高める種目で、筋肥大が目的の種目ではないからです。
そして、このような種目は単独で行うよりも、他の体幹トレーニングと組み合わせて、メインの筋トレの前に行うことで、その効果が倍増されます。それでは解説していきましょう。

バードドッグの行い方

写真A(タップで拡大)

最初に四つん這いになります。このとき(写真Aのように)体幹が真っすぐになるようにします。そこから右手と左足というように対角に四肢を伸ばし安定させます(写真B)。このとき、手足が前後に引っ張られているイメージで行うと、より体幹が強く収縮します。

写真B(タップで拡大)

体感ではどこの筋肉を使っているか分かりませんが、エクササイズの最中にお腹を触ってみると硬く収縮していることが感じられるはずです。慣れてくると、膝をついている方のつま先を浮かすことで支持基底面が小さくなり、難易度が高くなります(写真C)。

写真C(タップで拡大)

プログレッション(エクササイズの発展系)

写真D(タップで拡大)

より体幹の収縮を高めたい場合は、バランスボールを殿部と壁の間にはさみ、頭と殿部を引き剥がすように殿部でボールを押すことで、より強く腹筋の深部が収縮するはずです(写真D)。このエクササイズは特に腰痛の人には効果的な種目になります。ここで分かるように、体幹の筋肉、特に深部の腹筋は背骨に対して伸張性(エロンゲーション)の負荷がかかると収縮することができるということです。したがって高重量を用いて体幹が潰れてしまう人は、深部の腹筋がうまく収縮せずに腰椎に多大なストレスを与えてしまう危険性があります。
また、バードドッグの姿勢のまま胸椎を回旋させます。これは「分離と共同」と言う機能を高めます。腰椎と胸椎を別々に動かすことで、球技などで体幹を捻る際に、腰椎の負担を減らすことになります(写真E)。ポイントは骨盤を床と平行の状態から動かさないで固定した状態で、胸椎だけを回旋させることです。

写真E(タップで拡大)

バードドッグは以前紹介したデッドバグと同様で基本ですが、人間の機能を高めるためにはとても重要なエクササイズになります。「基本は極めても極めすぎることがない」と言われるように、単純な動作でもやり続けることで、必ずあなたの目標に良い結果をもたらすことができると思います。ぜひエクササイズの前のウォーミングアップに取り入れてください。


 

〈著者プロフィール〉
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師。整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)NSCACSCS、NPO法人JFTA理事長。17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。2006年NBBF全日本選手権第6位。

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