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25歳メンズフィジーク選手を襲ったギランバレー症候群 筋トレYouTuber・芳賀セブンとSNSが救った入院生活

「人生は一度きり」。このありふれた言葉を、どれだけの人が本当に理解しているのだろうか。昨年、JBBFオールジャパンフィットネスチャンピオンシップスのメンズフィジーク180㎝以下級で2位を獲得し、日本のメンズフィジークのトップで活躍する渡辺和也(わたなべ・かずや/25)選手は、昨年12月に「ギランバレー症候群」という末梢神経の障害により力が入らない、感覚がわかりにくい、しびれるなどの症状を起こす病気を発症。その闘病中に経験した絶望感や、気づいた「本当に大切なこと」とは。

【写真】渡辺和也さんの逆三角形コンテスト写真&入院中の様子

突然の入院宣告。「え、こんな程度で?」

入院中の渡辺選手

入院中の渡辺選手1

「身体のだるさや脚の重さなどの症状が出たのが11月の末で、12月1日に入院しました。症状が出る2週間前から1週間ほどお腹を下していたんですが、それが一旦治って、また急にきましたね。正確な原因は分からないのですが、生肉を調理する際、まな板や包丁に菌が残ってしまっていたのではないかと。加えて激しい減量の後だったので、免疫状態も良くなかったことも原因だと思います」

症状がでてからも、何とか仕事はできていた渡辺選手。だがある日の仕事終わりに急な異変が。

「身体のだるさなどを感じ始めてから数日後、12月1日の仕事終わりに渋谷で急に立てなくなってしまって。仕事終わりの気が抜けた瞬間に一気にきましたね」

「すぐにタクシーを呼んで病院に行き、ギランバレー症候群と診断されました。即刻入院が必要となったのですが、『え?こんな程度で?』とイマイチ事の重大さが分かっていなかったんです。ギランバレー症候群がどんな病気かも知らなかったんですよね」

 

アイデンティティが崩壊するほどの絶望感

入院中の渡辺選手

入院中の渡辺選手2

「ギランバレー症候群」という難病についての知識がなく、事態の深刻さを感じていなかった渡辺選手だが、医師からの説明で現実を目の当たりに。

「医師の方に病気の詳細や今後のリスクについて説明されたとき、将来に対するすごい絶望感を感じたんです。日常生活は半年~1年で元通りになるのですが、筋肉を収縮させる感覚などの神経系の問題は競技レベルで完全に回復するとは言い切れないとのことでした」

「僕は本気で競技をやってきたので、それを聞いた瞬間に自分の生きがいを全て失われたような……アイデンティティが崩壊してしまったような感情を抱きました。筋トレやメンズフィジークが自分からなくなったら、今後何をしていけばいいのか……何を頑張ればいいのか……そんな絶望感や虚無感に苛まれました」

それまでは何10㎏、何100㎏ものバーベルを持ち上げられていたが、急に握力が測定不能にまで力が落ちるという身体の変化のふり幅は相当なものだろう。実際に渡辺さんは「不思議な感覚だった」と語った。

「本当に全く力が入らないんです。握力も測定不能になりますし、指のつまむ力もなくなりました。末梢神経がやられるので、肩から腕、股関節から脚に力が入らない状態で。トイレも一人ではいけない、ペットボトルも看護師さんに空けてもらうような感じで、『こんなこともできないのか』と本当に屈辱的な感情を覚えました」

 

「今度は勇気づける側に回ろう」

アイデンティティが崩壊するほどの出来事があれば、立ち直りに時間がかかるはず。だが入院中のある日、同じ境遇を経験したとあるYouTuberの動画を見たことで心境に変化が。

「ただ、そこで筋トレYouTuberの芳賀セブン(芳賀涼平)さんの動画を見て、同じギランバレー症候群に罹ってしまったにも関わらず、復活して日本クラス別で優勝したり精力的にYouTuberとして活動する姿を見て、とても勇気づけられたのを覚えています」

「計3週間ほど入院したのですが、入院1週間後からSNSで病気のことを発信し始めました。競技に必ず復帰したいという気持ちがあったので、仮に復帰したあとのコンテストで負けてしまったとき、『病気だったから仕方ないよね』といった同情をされたくなかったんです。自分の美学に反するので、このことは隠したまま復帰しようと考えていました」

「ただ、芳賀さんのYouTubeを見て勇気を貰ったように、僕にも同じような苦しい思いをしている人たちに届けられるものがあるのではないか、と考えるようになったんです。全くの無名ではないですし、発信力を活かして僕も芳賀さんのように、今度は他の人を勇気づける側に回ろうと思い、SNSで現状を告白することにしたんです」

 

人生一度きり。ICUに入って痛感した「健康の大切さ」

入院中の渡辺選手

入院中の渡辺選手3

その後すぐに渡辺選手はSNSで自身の現状を赤裸々に発信。多くの人たちからの反響をもらい、渡辺選手自身にもいい影響が現れた。

「発信を始めてすぐに、多くの方々から読み切れないほどのメッセージを頂きました。『同じような神経系の病気だったけど、渡辺さんが希望を持ってリハビリしている姿に感銘を受けました』や、『仕事が辛くて辞めようと思っていたのですが、渡辺さんを見て、なんで自分はこんなことで諦めようとしているんだろうと踏みとどまれました』といった言葉を頂き、発信して本当に良かったと思いましたし、そのメッセージのおかげで僕自身も勇気づけられ、回復も早まったと思っています」

SNSはどうしても「自分の良い面」だけを見せがちになるが、渡辺選手は「それだけでは人は感動しない」と語った。

「ありのままを見せることが発信においてはすごく大事だと感じました。ありのままの言葉、ありのままの行動を見せることで人は感動するのではないかと考えるようになりました」

「今回の経験は、自分の人生観が大きく変わった出来事でした。最初にICUに入ったのですが、そこには重症度の高い人たちしかいないので、夜になると『苦しい』『痛い』『助けて』といった悲痛の声が聞こえてくるんです。それも僕より10歳ほどしか年齢が違わない人がですよ。そこで、ありきたりの言葉ですが『健康の大切さ』が身に染みました」

「今、健康体で色々なところに行けているのも当たり前ではないんです。いつ自分が一生車いすになるか分からないような経験をしたことで、これまたありきたりの言葉にはなるのですが、『人生一度きり』と本当に感じました。『あぁ、本当に1回しかないんだなぁ』と。なので自分が伝えたいことは言って、会いたい人には会っておかないとなと思いました」

今回の経験で、当たり前だがそれゆえに見逃されがちな大切なことに気づいた渡辺選手。最後に、今年の競技での目標を伺った。

「今年の目標はオールジャパン優勝、グラチャン優勝です。そしてその後の世界選手権でも優勝したいと思っています。今年、いける気がするんですよね。ストーリーができあがっているじゃないですか。僕は日本のメンズフィジークのアイコンになりたいという最終目標があるのですが、それは単純に身体だけではなく、その人の人柄やストーリーが重なってなれると思うんです。なので今年目標を達成して、その最終目標に近づいていきたいです」

現在はトレーニングを再開している渡辺選手だが、筋力はそれまでの半分ほどに低下しており、たまに筋肉に効いている感覚も分からなくなるという。そんな中でも「メンズフィジークのアイコンになる」という目標に向かって懸命にトレーニングに取り組む渡辺選手の姿は、多くの人々の心を打つに違いない。

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取材:FITNESS LOVE編集部 撮影:中島康介 写真提供:渡辺和也

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