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筋肥大に効果のあるホルモン「テストステロン」とは?|テストステロン連載(1/4)

男性ホルモンの一種であるテストステロンの名前を聞いたことはあっても、その特徴について詳しく知っている方はそう多くないのではないでしょうか。

今回は、テストステロンというホルモンに関する基本的な知識について解説します。テストステロンについて正しく知り、トレーニングライフをさらに有意義に送っていただければ幸いです。

【写真】テストステロン低下を予防する食事

<この記事の内容>
テストステロンの働きとは?
テストステロンはどのように作られるか
テストステロンの値が高い・低いと何が起きるか
・・・テストステロンの値が高い場合に起こること
・・・テストステロンの値が低い場合に起こること
テストステロンの低下を予防するために行いたいこと
・・・食事
・・・運動
まとめ

テストステロンの働きとは?

テストステロンは、男性ホルモンであるアンドロゲンのうちの1つです。テストステロン以外の男性ホルモンとしては、ジヒドロテストステロンやデヒドロエピアンドロステロンなどがあります。これらはその活性に差があるものの、ヒトの体の中では似たような働きをします。

テストステロンに代表される男性ホルモンには、以下のような機能があることが知られています。

・第二次性徴の発現
男性の体では、思春期以降に男性ホルモンの分泌量が増え始めます。それに伴い、男性器の発達、声変わり、体毛の増加などの変化が見られるようになります。

・筋肉量の増加
テストステロンはたんぱく同化ホルモンと呼ばれることもあります。栄養として摂取したたんぱく質を、アミノ酸を経由しながら、骨や筋肉として再構築する作用を助けるのがたんぱく同化ホルモンです。高校生程度から男性の体つきががっしりとしたものに変わるのは、テストステロンのような男性ホルモンの機能によるものです。

化学的に合成したテストステロンの類似物質を使用することで、このたんぱく同化作用を狙うこともできます。ボストン大学が2008年に行った研究では、エナント酸テストステロンを20週間にわたって高齢男性に使用したところ、レジスタンストレーニングを行わなかったにも関わらず、筋肉量と筋力が増加したことが報告されています(引用1)。

・精神面への影響
テストステロンは、筋肉や骨だけでなく、脳を含む神経系に作用することが分かっています。そのため、テストステロンの値が低下すると、気分の落ち込み、決断力の低下、イライラ感等が引き起こされることがあります。「更年期症状」や「更年期障害」という言葉を聞くと、女性に見られやすいものと思う方が多いかもしれません。実際に、女性が更年期症状に悩まされる割合は男性の2倍とされていますが、加齢によって男性ホルモンの量が減少すれば、男性でも似たような症状が現れます(引用2)。

テストステロンはどのように作られるか

続いて、テストステロンがヒトの体の中でどのように合成されるかについて解説します。意外と勘違いされている方もいますが、男性ホルモンは女性の体の中でも作られています。ただし、男性と女性では合成方法やその総量に一部違いがあることは知っておくと良いでしょう。

・男性
テストステロンのような男性ホルモンのいくつかは、精巣のライディッヒ細胞より分泌されます。ライディッヒ細胞は、さらに上流にある脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモンの刺激に反応して、テストステロン、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステロンを分泌します(引用3)。黄体形成ホルモンの分泌量を増やす栄養素があることも分かっており、実際にイタリアの研究者は、Dアスパラギン酸を摂取した被験者では、黄体形成ホルモンとテストステロンの双方の数値が上昇することを報告しています(引用4)。

・女性
女性の場合は、卵巣にある卵胞の顆粒層細胞から男性ホルモンが作られます。また、副腎と呼ばれる器官でもテストステロンの一部が作られますが、男性と比べると微量です。女性の体内で作られた男性ホルモンは、そのまま機能する他に、芳香族化という作用を受けて女性ホルモンに変換されるものもあります。閉経後にホルモン量が低下した女性に対しては、これらの性ホルモンを使ったホルモン療法が施されることがあります(引用5)。

テストステロンの値が高い・低いと何が起きるか

ここまでに、テストステロンの基本的な働きやその作られ方を解説しました。続いて、テストステロンの値が基準値よりも高かったり低かったりした場合に、どのような影響があるかを簡単にまとめます。血液検査で自分のテストステロンの値を知ることができる方は、それを参考にすると良いでしょう。

テストステロンの値が高い場合に起こること

テストステロンの値が高い場合に期待できる効果として、筋肥大の効率が上がることがあります。細胞には、精巣等から分泌されたテストステロンの刺激を受け取る受容体が存在します。テストステロンが受容体に作用することで、細胞内でのたんぱく質合成が促進され、結果として骨や筋肉といった組織の合成が引き起こされます。テストステロンの分泌量が多ければ、それだけ多くの受容体を活性化できるため、筋肥大の効率も上がると考えられます。テストステロンの値は20代でピークになるため、ホルモンの観点からすれば、その頃が筋肉を発達させるには最も良いタイミングだと言えるでしょう(引用6)。

テストステロンには、気分を前向きにさせたり、決断力を上げたりする効果があることも解説しました。加齢によってテストステロンの分泌量が低下することで、イライラ、抑うつ、精神的疲労などを感じるのが男性更年期障害です。元々テストステロンの分泌量が多い方は、このような症状に悩まされる可能性が少ないとも言えます。

テストステロンの値が低い場合に起こること

テストステロン量が多い場合とは反対に、筋肥大の効率が低下することがあります。年齢が上がってからでは筋肉が増えにくいことの原因の1つはテストステロン値の低下です。最近では、血液検査でテストステロンの値を調べた上で、医療行為としてテストステロンの類似物質を注射してもらえるクリニックも現れ始めています。ただし、これはドーピング違反になる行為であるため、大会への出場を検討している方は行うことができません。

テストステロンの値が極めて低い場合には、男性更年期障害に見られる症状が現れることも予想されます。必ずしも高齢になった場合に発症する訳ではなく、元々のテストステロン値が低い方は、若くても症状が出ることがあります。最近では男性更年期障害が世間的にも認知されてきていますし、保険診療の範囲でホルモン療法を受けることもできます。体がだるかったり無気力だったりする状態が続いている方は、男性ホルモンに詳しい医師の診察を受けてみると良いかもしれません。

テストステロンの低下を予防するために行いたいこと

最後に、テストステロンの低下を予防するために気をつけたいことを、食事と運動の2つの観点から解説します。普段の生活に取り入れられそうなものを見つけて、ぜひテストステロンの値を意識してみてください。

食事

テストステロンはその構造からステロイドホルモンに分類されます。ステロイドホルモンは脂質の一種であるコレステロールから合成されます。そのため、減量中だからといって極端に脂質の摂取を制限すると、テストステロンの合成が妨げられる可能性があります。コレステロールは、卵や肉類の脂身に多く含まれますので、これらをバランスよく摂取することを考えると良いです。

テストステロンの合成のためには亜鉛も大切な栄養素です。亜鉛が欠乏した状態ではテストステロンの値が下がり、逆に亜鉛を摂取するとテストステロンの値が上がるという研究結果があります(引用7)。亜鉛が豊富に含まれる食品には、牡蠣、牛赤身肉、豚レバーなどがあります。筋肉作りを考える方以外でも、これらの食品に気を配ると、生活の質を向上させられるかもしれないですね。

それ以外では、種々のビタミンもテストステロンの合成には欠かせません。さまざまな食品からバランス良く摂取できれば良いですが、食生活が偏っている場合は、サプリメントを活用するのも1つの選択肢です。

運動

テストステロンのレベルを下げる運動と聞くと、有酸素運動を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。実際に、ブラジルの研究者が2021年に発表した論文では、16週間の有酸素運動介入により、テストステロンの値が介入前より低下したことが報告されています(引用8)。しかしながら、有酸素運動によってテストステロンの値が上がったとする研究結果もあります。ピッツバーグ大学が1996年に行った研究では、66歳から76歳までの被験者に有酸素運動を行わせたところ、運動実施中のテストステロン値が上昇したことが分かっています(引用9)。被験者の年齢や運動の強度によっても違いが出てきますので、有酸素運動については、統一した見解を述べることは難しいでしょう。

一方で、レジスタンストレーニングはテストステロンの値を高めることが知られています(引用10)。2週間ごとにトレーニング強度を上げていき、5週目と6週目においては、6回から8回挙上できる重量でトレーニングした場合にテストステロンの値が上がったという報告がその一例です(引用11)。中には、レジスタンストレーニングを行ってもテストステロンの値が変わらなかったとする研究結果(引用12)もありますが、基本的には、8回程度挙上できるウエイトを扱えば、テストステロンの分泌量は上がるとの考えが多数です。テストステロンの値を高めるという観点でも、レジスタンストレーニングは筋肉作りに欠かせないと言えるでしょう。

まとめ

今回は、テストステロンの基本的な部分を解説しました。
筋肉作り以外にも重要な働きがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

テストステロンを高めるために意識したいポイントの中では、食事面は比較的理解が容易だったのではないかと思います。テストステロンの材料となるコレステロールや、合成を助けるビタミン類などが不足しないようにすることが大事ですね。
それに対して、運動は統一された意見がないのも事実でした。それでも、8回程度挙上できるウエイトを扱うオーソドックスなトレーニングでテストステロンの値が上がるという研究は多くあるので、これを基準にトレーニングするのがやはり勧められると思います。

テストステロンの値を普段から高めるような工夫をして、ボディメイクの効率を上げるだけでなく、より豊かな人生を送れるようになると良いでしょう。

執筆者:舟橋位於(ふなはし・いお)

1990年7月7日生まれ
東京大学理学部卒(学士・理学)
東京大学大学院総合文化研究科卒(修士・学術)
NSCA認定パーソナルトレーナー
調理師

東京大学在学中に石井直方教授(当時)の授業に感銘を受け、大学院は石井研究室で学ぶ。団体職員等を経て、現在は執筆業務および教育関連事業にて活動中。得意な執筆ジャンルは、運動・栄養・受験学習。

引用1. Storer TW, Woodhouse L, Magliano L, Singh AB, Dzekov C, Dzekov J, Bhasin S. Changes in muscle mass, muscle strength, and power but not physical function are related to testosterone dose in healthy older men. J Am Geriatr Soc. 2008 Nov;56(11):1991-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18795988/
引用2. McHenry J, Carrier N, Hull E, Kabbaj M. Sex differences in anxiety and depression: role of testosterone. Front Neuroendocrinol. 2014 Jan;35(1):42-57.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24076484/
引用3. Zirkin BR, Papadopoulos V. Leydig cells: formation, function, and regulation. Biol Reprod. 2018 Jul 1;99(1):101-111.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29566165/
引用4. Topo E, Soricelli A, D'Aniello A, Ronsini S, D'Aniello G. The role and molecular mechanism of D-aspartic acid in the release and synthesis of LH and testosterone in humans and rats. Reprod Biol Endocrinol. 2009 Oct 27;7:120.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19860889/
引用5. 厚生労働省|更年期障害
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-081
引用6. S. Mitchell Harman, E. Jeffrey Metter, Jordan D. Tobin, Jay Pearson, Marc R. Blackman, Longitudinal Effects of Aging on Serum Total and Free Testosterone Levels in Healthy Men, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 86, Issue 2, 1 February 2001, Pages 724–731
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11158037/
引用7. Te L, Liu J, Ma J, Wang S. Correlation between serum zinc and testosterone: A systematic review. J Trace Elem Med Biol. 2023 Mar;76:127124.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36577241/
引用8. Ribeiro VB, Pedroso DCC, Kogure GS, Lopes IP, Santana BA, Dutra de Souza HC, Ferriani RA, Calado RT, Furtado CLM, Reis RMD. Short-Term Aerobic Exercise Did Not Change Telomere Length While It Reduced Testosterone Levels and Obesity Indexes in PCOS: A Randomized Controlled Clinical Trial Study. Int J Environ Res Public Health. 2021 Oct 27;18(21):11274.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34769797/
引用9. Zmuda JM, Thompson PD, Winters SJ. Exercise increases serum testosterone and sex hormone-binding globulin levels in older men. Metabolism. 1996 Aug;45(8):935-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8769347/
引用10. Gharahdaghi N, Phillips BE, Szewczyk NJ, Smith K, Wilkinson DJ, Atherton PJ. Links Between Testosterone, Oestrogen, and the Growth Hormone/Insulin-Like Growth Factor Axis and Resistance Exercise Muscle Adaptations. Front Physiol. 2021 Jan 15;11:621226.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33519525/
引用11. Roberts CK, Croymans DM, Aziz N, Butch AW, Lee CC. Resistance training increases SHBG in overweight/obese, young men. Metabolism. 2013 May;62(5):725-33.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23318050/

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